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紀元二千六百年、幻のオリンピック

最近、満洲にはまっている。
アベノミックスの首相は、「日本を取り戻す」らしいが、安部の祖父が作った、満州国を取り戻したいのに過ぎない。

日本が戦争に進まなかったら、1940年、つまり、紀元2千6百年には、東京オリンピックが予定されていた。
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 開会式のファンファーレが水を打ったような静寂を切り裂いた。神宮外苑競技場は揺れるような歓声がトラックからスタンドを覆った。
神宮の杜に競技場から溢れた群集も呼応するように地響きを上げた。

「昭和十五年九月二十一日午後二時。ここ明治神宮外苑競技場において開催される世紀の祭典。
オリンピックの開会であります。」
興奮したアナウンサーの実況中継が、ラジオと実験放送の街頭テレビから日本全国に流れた。
アジアで初めて開催する第十二回オリンピック。明治神宮外苑競技場は十一万人の観衆で埋め尽くされていた。
「選手団の入場であります。
先頭はオリンピックの祖国ギリシャであります。」
奉祝国民歌『紀元二千六百年』の行進曲に乗って選手団の入場行進が始まった。

金鵄(きんし)輝く日本の 榮(はえ)ある光 身にうけて
いまこそ祝へこの朝(あした) 紀元は二千六百年
あゝ 一億の胸はなる

「素晴らしい晴天に恵まれた大東京に、世界五十四カ国の若人が集い、アジアで初めてのオリンピックであります。我ら一億の民の胸躍る、まさしく栄えある光を身に受けての行進であります。
ギリシャに続き、アルファベット順に各国が競技場のトラックに姿を現しました。まずアルゼンチンであります。地球の裏側からようこそ、日出ずる国日本へ。次に南半球の雄、オーストラリアが入場してまいりました。オーストラリアに続きますのは、南米からはブラジル、おお、我が日の丸の手旗を打ち振っての親愛なる入場行進であります。続くカナダも大陸、広い国土を持った大国が、これまた大選手団を送り込んで参りました。」
A、Bと進み、Cの大国、CHINA中華民国は長引く支那事変の影響で参加を辞退したことをアナウンサーは放送しなかった。
「これから、十六日間、十八種目による熱戦が繰り広げられるわけであります。
暗黒の大陸と呼ばれて久しいアフリカ大陸からは、エジプトとエチオピアが二カ国が続いて行進して参ります。」
アナウンサーは名調子で、奉祝歌『紀元二千六百年』の歌詞を織り交ぜて放送した。

歡喜あふるるこの土を しつかと我等ふみしめて
はるかに仰ぐ大御言(おほみこと) 紀元は二千六百年
あゝ肇國(ちょうこく)の雲青し


「歓喜溢れるこの日本の地にしっかと足を踏みしめて褐色の肌をした民族の健気な行進であります。彼ら黒人といえど八紘一宇の世界の一員。畏れ多くも天皇陛下の大御言を戴くことになります。」

荒(すさ)ぶ世界に唯一つ ゆるがぬ御代に生立ちし
感謝は清き火と燃えて 紀元は二千六百年
あゝ報國の血は勇む

「フランス、イギリスとヨーロッパ列強が入場して参りました。かつてのヨーロッパ列強の二国は名誉ある雌伏、荒んだ世界となっておりますとも、この揺るがぬ神国大和の地では同胞相集い、感謝の行進であります。」
近衛文麿首相は口髭を撫でながら、左に座るドイツ公使に目配せした。
「さあ、あなたのお国ですよ。」
スターマーは頷き、立ち上がった。少しよろけたのは夕べの政府からの歓待の酒が残っていたからだった。
「おおっと、夕べは少し飲み過ぎました。」スターマーは苦笑いしながら、それでも差し出されたシャンパングラスを手に取った。

「そして、ひときわ大きな歓声はハーケンクロイツを高々と掲げた我が同盟国、ドイツ第三帝国の入場であります。総勢二百名を越える大選手団を送り込んでおります、一糸乱れぬ歩調、同盟国堂々の行進であります。さすがに統制の取れた、また、均整のとれた体操ドイツの面目躍如と言ったところでしょうか、メダルを総ナメにするドイツ体操選手団に注目であります。」
日本に三国同盟の締結推進の特使として派遣されたスターマーは貴賓席で観衆に手を振り、ドイツ語で吼えた。
「ゲイシャも良かったぞ!」
そしてナチス式の敬礼でドイツ選手団を迎えた。スターマーの右後方に席をとった近衛内閣の大臣たちも、シャンパンのグラスを掲げて乾杯した。

「続きまして、友好国であるイタリアが入場して参りました。一糸乱れぬドイツの行進とは対照的に、にこやかに日本の小旗を打ち振るイタリア選手団に場内から大きな歓声があがっております。ベニート・ムッソリーニ首相は友好国である我が国に対してローマのオリンピック立候補辞退を表明し、日本に花を持たせ、次回開催に甘んじてくれた友好国に一層の拍手を送ろうではありませんか。」
近衛内閣の右隣には、イタリアファシスト党の外相、ジャン・ガレアッツォ・チャーノが座っていた。ムッソリーニの娘婿である優男はシャンパングラスを掲げイタリア選手団に投げキッスを贈った。

潮ゆたけき海原に 櫻と富士の影織りて
世紀の文化また新た 紀元は二千六百年
あゝ燦爛(さんらん)のこの國威